ジャパン・リスク・フォーラム
「ストレスシナリオ研究会」について

「ストレスシナリオ研究会」では、金融機関や事業会社等の経営層やCFO,CRO,CIO,あるいは各分野の専門家の有志の皆様にご参集頂き、2010年より、議論を開始してきています。ジャパンリスクフォーラムでの議論の根幹をなしてきています。2010年に研究会が発足した際の趣旨等については以下をご参照ください。

「ストレスシナリオ研究会 ERM醸成目指し本格始動 CROフォーラムの日本版目指す」保険毎日新聞 2011年6月20日

1.我が国においても、銀行や保険会社、さらに事業法人で、ERM (Enterprise Risk Management)が、経営の重要テーマとして、資本・リスク管理政策の中核に据えられつつあります。

規制業界である金融機関においては、国際的規制を踏まえた、各業界の検査マニュアル等にERMが明記され、一方、一般事業法人においては、会社法や金商法の内部監査への法令遵守としての対応からERMがその延長線上に捕らえられています。そうした規制や内部監査の要請からERMの議論がされますと、手法面では全体的に高度化が達成されてきてはいますが、一方で、形式的な議論が先行し、枠組みだけを議論して、目的を達したかのような、いわゆるサイロ的傾向も、現場ではいまだに目につきます。また、リスクモデルのテール部分の議論をする過程で、専門家たちは、実際の事象や市場の展開を、どれほど具体的に取り込めているのでしょうか。さらに、経営者レベルの方々は、そうした専門家の議論を、どう理解し、批判的にレビュー出来ているのかというと、必ずしも専門的かつ経営の知見で、十分な水準には達しえていない場合も多いのかも知れません。

しかし、ERMは、もともと企業経営の価値創造のためのアプローチであり、経営と同義語であります。

ERM への対応能力は、組織および個々人、経営陣の能力の総結集ですし、とりわけ経営レベルでのERMを束ねる能力とリーダーシップが極めて重要と思います。 例えば、ストレスシナリオの具体的な内容を深堀りすることが出来、それを自社のビジネスモデルに即して理解が出来ること、実はこの点が、ERMのプロセスを本当に有効に出来るかの根幹に関わっていると思います。そうしたストレスシナリオを深く具体的に理解し、研究し、絶えずアップデートする場が、経営者やリスクに携わる人々には本来必要なのに、そうした共有の場は今のところ、日本にはあまりないようです。

そうしたストレスシナリオとアップサイドを見る力は、経営やリスクに関わる人々の、自分自身の能力を高めるとともに、同時に自分の能力の限界を知ることとなり、対応策を考える上でも、大変重要ではないかと思っております。

2.一方、国際金融界では、BasleやG20、IMF,IBRD,EU 等の場に加え、IIFや”Group of Thirty” (http://www.group30.org/members.shtml)では、国際金融制度に関わる重要な具申を繰り返してきました。また、欧州の保険業界では、有力な保険会社のCRO,CFO そしてCEOにより、「CROフォーラム」という場が形成され、定期的に各社の枠を超えた議論を極めて真剣に展開しています。我が国におきましては、例えば、リスクの専門家が結集した懇談会等の場での意見形成は監督者への具申にもなってきていますが、一方、各業界団体による意見具申等は、必ずしも国際的な枠組みに関わるものではなく、ローカル性が強いものにとどまっているような感じがします。国レベルでもERM的な戦国家略を強力に形成していく必要があると思われますが、それを支える政治家や官僚の経験と能力、そして民間からの具申内容等には、残念ながら、他国に比べ、かなり弱体であるのではないかとの危惧を抱いております。

3.「ストレスシナリオ研究会」では、以上のような意識のもとで、議論を続けております。企業(および国)の経営のビジネスモデルが前提としている、経済的、政治的、あるいは自然環境的なシナリオを、より深く理解し共有する努力を、継続的に行うことを通じて、企業(および国)の資本・リスク管理、あるいはERMの水準を高めることに寄与することを目的の一つとしています。同時に、欧州の「CROフォーラム」そのものではありませんが、将来それに匹敵しうるような場をも目指しうるように、企業経営、我が国のリスク管理等への貢献を目指したいとも思います。

以上の発足時の趣旨を要約しますと、次のようになります。

「企業経営(や国家管理)のための、(広義の)ERMのより深化が重要であるが、ERMの議論をすると、ビジネスモデルを離れ、規制に対応するために、とかくサイロ的、あるいは形式的な議論が先行し、枠組みを議論して目的を達したかのような傾向も見受けられる。

リスクモデルの「テール部分」の議論をする過程では、専門家たちは、実際の事象や市場の展開を、どれほど具体的に取り込めているのかどうか。単に、過去の「イベント」の整理をしてモデルを構成し、その適合性を議論することで満足していないかどうか。

経営や意思決定に携わるレベルの方々は、そうした専門家の議論を、どう理解し、批判的にレビュー出来ているか。専門家や部下の用意した「シナリオ」を自分の言葉で十分に咀嚼・判断し、批判の上、修正が出来うるか。

ERM への対応能力は、組織および個々人、経営陣の能力の総結集、とりわけ経営レベルでのERMを束ねる能力とリーダーシップが極めて重要。

ビジネスモデルとリスクは、一体表裏の関係である。当然ながら、一度設定した「リスク水準」は、様々なデータとシナリオ分析を通じて、その妥当性が検証されるべき。

従来、一般論として、日本人(専門家、経営者)はとかく、「普段あり得ないこと」は、分析したがらない。欧米人は、実務的に「ワーストケース」をも想定した議論立てをする。

設定された「リスク水準」以上のこと(ストレス)が起こる場合のシナリオ、さらにその場合にどう対応できるか(資本強化、リスク回避、リスクヘッジ、ビジネスモデルの変更、等)についての具体的かつ実践的な議論の積み上げが必要。

金融機関のストレステストに関する検査マニュアルでの検討事項は、良く書きこまれてはいるものの、その実践的なノウハウの積み上げはまだ限られている。

ストレスシナリオを深く具体的に理解し、研究し、絶えずアップデートする場が、経営者やリスクに携わる人々には本来必要であるが、そうした「共有の場」は今のところ、日本にはあまりない。欧州の「CROフォーラム」そのもではないが、それと同様に議論しうる場も必要となろう。

そうしたストレスシナリオとアップサイドを見る訓練は、経営やリスクに関わる人々の、自分自身の能力を高めるとともに、同時に自分(あるいは個社、国家全体)の能力の限界を知ることとなり、具体的対応策を考える上でも、大変重要。そのための実践的な訓練を継続的に行う必要がある。」

<ストレスシナリオ研究会での議論対象となるリスク>

主に「ジャパンリスク」に関連し以下の内容を主要な論点として議論してきています。

実際のマクロ経済リスクシナリオ(日本、中国、米国、欧州、アジア)

我が国の財政収支、国債問題および復興、原発補償問題

金融財政政策の評価

「ユーロ危機」とソブリンリスク

米国経済とバランスシート調整

中国の経済政策と調整過程、等

市場リスク(為替、金利、株価、流動性)

信用リスク(企業、ソブリン、流動性)

地政学的リスク(イラク、イラン、北朝鮮、中国、韓国、ロシア、中東、等)

自然災害リスク(巨大地震、巨大台風、ハリケーン、洪水)、パンデミックリスク

グローバルベースでのビジネスモデルのシフト、等

ジャパンリスク日本に関するリスクマッピング

銀行、証券と保険会社のストレステスト

規制機関(米国、EU/CEBS,IAIS, 日本/FSA等)によるもの、

各金融機関の内部テスト(ストレスシナリオとリスクレベル)

事業法人におけるストレステスト

ストレスシナリオの対象と構成、レビュー:実例の分析、経営の関与 、等

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